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【アラベスク】  第6章 雲隠れ (前編)



第3節 意地も虚勢も実力のうち? [2]




「えぇ、金本くんなら、ヌワラエリヤなんてお好きなんじゃないかしら?」
 なんか、舌噛みそうな名前だな。ってか、ヌワ… なんとかって、紅茶の名前なんだろうな? たぶん。
 頭上に?マークを点滅させつつ、伸ばされた左手をゆるやかにかわす。
「わりぃけど、ホント無理だから」
「あら? 紅茶はお嫌い? ではコーヒーでも」
「マジ用事あっから」
 金持ち特有とも思えるのんびりした言葉をすばやく遮り、彼女らの横をすり抜けようとする。
「ご冗談でしょう?」
 これまたすばやく伸びる腕。その細い腕が、渾身の力を込めて聡を引き止める。
「まさか、本当に大迫さんのところへ?」
「そのまさかです」
 途端、少女は頬を紅潮させる。大きく息を吸い、だが怒りか、もしくは断られたという羞恥で言葉も出ない様子。
「信じられませんわっ!」
 ようやく出てきたのは憤慨の言葉。
「あのような小汚い駅舎の、どこが魅力的だと言うの? (わたくし)のお誘いするティールームがどれほどのものか、おわかり?」
「それは知らないけど」
「ならば、一度ご覧になるべきですわっ!」
 まるで、そうしなければ人生が終わってしまうとでも言いたげな態度。
 なにもお茶するしないだけで、そこまで怒るコトもないだろう?
 彼女たちの気持ちがわからないでもないが、それでも正直、(うざ)いと思ってしまう。
 なんだって女は、こうもしつこいんだろうなぁ?
 小学生時代から幾度となく感じた疲労。
「悪いけどさぁ〜」
「お断りなんて、許しませんわよ」
「許すとかって、そういう――」
「相変わらずのモテッぷりだな」
 皮肉のこもった男の声。思わず言葉尻を失う。
 振り返る先で、少し垂れた目尻が笑った。
(つた)っ」
 聡の声に、蔦康煕(こうき)は軽く右手をあげる。
 彼の姿を認め、すばやく教室内を見渡し、そうして再び蔦へ視線を戻す。
涼木(すずき)なら、帰ったみたいだぜ」
 その言葉に蔦も教室内へ視線を移し、やがて小さくため息をついた。
「みたいだな」
 ?
「どうした?」
 問いかけに蔦は顔をあげ、ひょいっと肩をあげる。そうしてあげた右手の人差し指を立て、チョイチョイッと招く。
「チョット付き合えよ」
「俺?」
「お前以外に、誰誘うんだよ」
 呆れたように目を細める。
「大丈夫だ。大した時間は取らせねーよ」
 それにっと、背後の女子生徒へ視線を移す。そうして目だけで付け足した。
 俺って、結構助け舟だと思わねぇ?
 その瞳に、聡はほんの微かに上目づかい。クルリと振り返って両手をあげた。
「ってコトで、悪いな」
「ちょっとっ!」
「なにそれっ!」
 ヒステリーのような抗議が同時に起こる。
「こっちが先約でしょっ」
「まだ予約前」
「ひっどぉ〜いっ!」
「金本くんがそんな人だとは思いませんでしたわっ!」
 そりゃ どうも
 なんとも身勝手な言葉もサラリと聞き流し、蔦を促して教室を出る。
「お羨ましいことで」
「本当に羨ましいとかって思ってるのかよ?」
 聡の言葉に蔦はケラケラと笑い、両手を後頭部に当ててのんびりと歩く。







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