「えぇ、金本くんなら、ヌワラエリヤなんてお好きなんじゃないかしら?」
なんか、舌噛みそうな名前だな。ってか、ヌワ… なんとかって、紅茶の名前なんだろうな? たぶん。
頭上に?マークを点滅させつつ、伸ばされた左手をゆるやかにかわす。
「わりぃけど、ホント無理だから」
「あら? 紅茶はお嫌い? ではコーヒーでも」
「マジ用事あっから」
金持ち特有とも思えるのんびりした言葉をすばやく遮り、彼女らの横をすり抜けようとする。
「ご冗談でしょう?」
これまたすばやく伸びる腕。その細い腕が、渾身の力を込めて聡を引き止める。
「まさか、本当に大迫さんのところへ?」
「そのまさかです」
途端、少女は頬を紅潮させる。大きく息を吸い、だが怒りか、もしくは断られたという羞恥で言葉も出ない様子。
「信じられませんわっ!」
ようやく出てきたのは憤慨の言葉。
「あのような小汚い駅舎の、どこが魅力的だと言うの? 私のお誘いするティールームがどれほどのものか、おわかり?」
「それは知らないけど」
「ならば、一度ご覧になるべきですわっ!」
まるで、そうしなければ人生が終わってしまうとでも言いたげな態度。
なにもお茶するしないだけで、そこまで怒るコトもないだろう?
彼女たちの気持ちがわからないでもないが、それでも正直、煩いと思ってしまう。
なんだって女は、こうもしつこいんだろうなぁ?
小学生時代から幾度となく感じた疲労。
「悪いけどさぁ〜」
「お断りなんて、許しませんわよ」
「許すとかって、そういう――」
「相変わらずのモテッぷりだな」
皮肉のこもった男の声。思わず言葉尻を失う。
振り返る先で、少し垂れた目尻が笑った。
「蔦っ」
聡の声に、蔦康煕は軽く右手をあげる。
彼の姿を認め、すばやく教室内を見渡し、そうして再び蔦へ視線を戻す。
「涼木なら、帰ったみたいだぜ」
その言葉に蔦も教室内へ視線を移し、やがて小さくため息をついた。
「みたいだな」
?
「どうした?」
問いかけに蔦は顔をあげ、ひょいっと肩をあげる。そうしてあげた右手の人差し指を立て、チョイチョイッと招く。
「チョット付き合えよ」
「俺?」
「お前以外に、誰誘うんだよ」
呆れたように目を細める。
「大丈夫だ。大した時間は取らせねーよ」
それにっと、背後の女子生徒へ視線を移す。そうして目だけで付け足した。
俺って、結構助け舟だと思わねぇ?
その瞳に、聡はほんの微かに上目づかい。クルリと振り返って両手をあげた。
「ってコトで、悪いな」
「ちょっとっ!」
「なにそれっ!」
ヒステリーのような抗議が同時に起こる。
「こっちが先約でしょっ」
「まだ予約前」
「ひっどぉ〜いっ!」
「金本くんがそんな人だとは思いませんでしたわっ!」
そりゃ どうも
なんとも身勝手な言葉もサラリと聞き流し、蔦を促して教室を出る。
「お羨ましいことで」
「本当に羨ましいとかって思ってるのかよ?」
聡の言葉に蔦はケラケラと笑い、両手を後頭部に当ててのんびりと歩く。
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